【40代男の一人旅】坂道と猫、温泉と酒。気ままに巡る平日の熱海紀行

ふと、潮風に吹かれたくなった。日常から少しだけ離れ、穏やかな時間を過ごしたい。そんな思いつきで、今回の旅の目的地を「熱海」に決めた。週末の喧騒を避けるため、あえて選んだ金曜日の出発。群馬の自宅を朝5時に出て、私は一人、車を走らせた。

夜明けの静寂と、海辺の朝食

まだ夜が明けきらない道を走る。少し肌寒い空気が、旅の始まりを告げているようで心地よい。いつものように1時間半に一度は休憩を挟みながら南へ向かうと、朝8時過ぎには車窓の景色が拓け、陽光を浴びてきらめく相模湾が見えてきた。この瞬間がたまらない。海岸線を走る爽快感に、旅への期待が一気に高まっていく。

午前9時、熱海に到着。目についた駐車場に車を止め海辺を散策していると、なんとも趣のある古めかしい喫茶店が目に留まった。吸い寄せられるようにドアを開け、モーニングセットを注文する。正直に言えば、味はごく普通だったかもしれない。しかし、窓から差し込む柔らかな光と、目の前に広がる穏やかな海を眺めながら味わう朝食は、それだけで格別なものに感じられた。旅先では、こういう雰囲気に浸る時間こそが贅沢なのだ。

静寂に包まれたパワースポット巡り

朝食を終え、最初に向かったのは「伊豆山神社」。平日の午前中ということもあってか、広大な境内は静寂に包まれ、その荘厳な空気に心が洗われるようだった。友人のためにお守りをいくつか選び、次に向かったのは、樹齢2100年を超える大楠で知られる「來宮(きのみや)神社」。こちらは綺麗に整備された境内にモダンなカフェが併設されており、伝統と現代が融合した姿が印象的だった。

Googleマップの罠と、猫たちの癒し

さて、次なる目的地は間欠泉。熱海駅近くに車を止め、地図アプリを頼りに歩き始めたが、これが大きな判断ミスだった。熱海は想像以上に高低差の激しい街だったのだ。アプリが示したのは、車も通れないような細い坂道。朽ちかけた東屋などが現れ、「本当に観光地なのか?」と不安がよぎる。

そんな心細い私の前に現れたのが、救世主である猫たちだった。人を恐れぬ様子でくつろぐ猫たちに癒されながら、なんとか目的の間欠泉に到着。しかし安堵も束の間、今度は延々と続く登り坂を戻らなくてはならないという現実に、しばし呆然とした。

坂道の先のご褒美と、温泉街の夜

汗だくでホテルにたどり着き、荷物を置くのももどかしく屋上の露天風呂へ直行する。火照った体を湯に沈め、眼下に広がる熱海の街並みを眺めていると、先ほどの苦行が嘘のように溶けていった。

すっかりリフレッシュして、再び街へ。喫茶店のような店で軽く一杯飲んだ後、地元の食材にこだわる個人経営の居酒屋を見つけた。名物だというアジフライは衣がサクッと身はふっくらで、酒の肴に最高だった。

夜8時、旅の夜をもう少し楽しもうとスナックのドアを開けると、なんとキャストが出払っているという温泉街ならではのハプニングに遭遇。ホテルの宴会にコンパニオンとして“出張”しており、9時過ぎまで戻らないという。仕方なく、夜の海辺を40分ほど散策し時間を潰すことに。ライトアップされたモニュメントをぼんやり眺める時間も、一人旅ならではの自由なひとときだ。再び店に戻り、夜12時までグラスを傾けた。

旅の締めは、深夜のラーメンと部屋での晩酌

スナックを出て、心地よい夜風に吹かれながらホテルへ戻る道すがら、一軒の古めかしいラーメン屋の灯りが目に飛び込んできた。小腹が空いていたこともあり、思わず暖簾をくぐる。カウンターだけの小さな店で食べた、昔ながらの中華そば。その気取らない味が、疲れた体に優しく染み渡った。あまりの美味しさに、ホテルでの晩酌のつまみにしようと、店主に頼んで餃子を一人前包んでもらう。

コンビニで追加の酒を買い込みホテルに戻ると、ささやかな二次会の始まりだ。持ち帰った熱々の餃子をつまみに酒を飲みながら、友人たちに見せるための動画を撮る。こんなふうに、誰にも邪魔されず夜更けまで気ままに過ごす時間こそ、一人旅の醍醐味だろう。

翌朝、目が覚めたのは9時過ぎ。チェックアウトは11時なので、慌てる必要はない。朝風呂を楽しむべく、もう一度温泉へ。旅の疲れを完全に洗い流し、静かな熱海の街並みを目に焼き付けた。

帰路は土曜日。渋滞を避けるため寄り道はせず、まっすぐ群馬を目指す。昼過ぎには見慣れた我が家に到着した。

計画通りにはいかないハプニングも、人懐っこい猫たちとの出会いも、深夜に味わったラーメンも、全てがこの旅を彩る忘れられない思い出となった。ほんの少し日常から離れるだけで、こんなにも心は満たされる。さて、次はどこへ行こうか。そんなことを考えながら、私は旅の荷物を解いた。

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